大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(う)911号 判決

被告人 田中三郎

〔抄 録〕

弁護人の論旨について。

被告人が昭和三十三年一月十八日埼玉県庁自動車々庫内よりキー十一個を窃取して来たと検察官に自白していること及び右窃取したキーであるとして検察官が提出した十一個のキーの中被害品に該当するのは一個のみで、他の十個は埼玉県庁自動車々庫の盗難品ではなかつたことは所論のとおりである。しかしこの事から被告人が同車庫から窃取したキーは一個であると認めなければならぬものではない。被告人は前記のように検察官に盗んだキーの個数を十一と供述しているのみならず、埼玉県庁自動車整備係主任須藤市郎は証人として供述した際十二個盗まれたと述べ、その個数は正確に一致していないものの、一個のキーのみが盗まれたものでないこと明らかで、十一個のキーが窃取されたと認定するについての証拠に欠けている点はない。所論は原判決が被害品に該当しない十個のキーを含め十一のキー全部を判決の証拠に掲げているかの如く誤解しているのかも判らないが、原判決はキーの存在を証拠として記載していないことは判文自体で明らかであるから、たとえ被告人が盗んだキーであるとして提出したものが被害品でなかつたことが判明しても、被害品に該当するキー一個について窃盗罪を認めるべきであるとの法則は存在しない。原判決には所論の如き違法はなく論旨前段はその理由がない。なお所論後段は被告人が全部埼玉県庁から盗んだキーであるとして提出したものの中、被害品に該当しないこと明らかなものが存するから、被告人の自白調書に記載された全部が虚偽であるとし、これを証拠とするは違法であると主張するが、被告人がキーを盗んだとの自白と盗んだキーを提出する旨の供述とが一通の供述調書中にあつても、不可分のものとは認められず、後者の供述が真実に反し、証拠に供し難い理由があつても、前者の自白部分の証拠能力を失わせるものではない。原判決が右自白調書を証拠としているのは、真実に合致しない部分を廃除してその余の原判示第三の窃盗の事実に合致した供述のみを証拠とした趣旨で、この事は原判決が検察官から証拠として提出され証拠調を終つたキー十個を証拠価値なしとして判決に引用していない点に徴してもこれを是認することができる。してみれば原判決が被告人の自白調書を引用したのは所論の如き理由不備あるものといえず、論旨後段も理由がない。

(加納 足立 山岸)

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